2・窓・葱

飛行船に乗りたいです。

言葉のない子供   「すいかの匂い」江国香織

子供のころの記憶はなんだか不安で、悲しくて、心細い。

それはその当時言葉を持っていなかったからだと思う。

言葉を持っていないから、子供は気持ちを言葉にあてはめられない。

気持ちはただ胸のなかで広がるばかり。

それが何なのかわからず、分類も分析もできず、ただただ実感が沸く。

夕焼けや友達の表情、冷たいマンションの壁とか、でこぼこのコンクリート

爪の隙間の砂利、そんなものと並列して漠然とした感情がある。

 

江国香織の、子供の感覚をそのまま表現しているところがすごいと思う。

大人が言葉を使って子供の心を描いているのだけれど、

その大人の言葉で私たちの子供のころの感覚を生のまま浮かび上がらせるのだから、

たまげたものだとおもう。

自分自身さえ忘れていた感覚が、江国さんの本を読んでいたら復活する。

たちまち7歳の子供みたいに心細くなる。

 

「すいかの匂い」はとくにそんな本だった。

数年前に一回読んだだけなのに、夏になると思いだす。

子供のグロテスクな感覚、人間の素っ裸なきもちを心臓に刷り込まれるような

ちょっとトラウマな本。

子供の熱気と湿気、当時大して食べたいと思わなかったスイカの、べたついた香りがこの本から沸き立っているよう。

別に好きな本ではないけれど(江国さんならウエハースの椅子とかのほうがずっと好き)、印象に強く残った。